1999年3月
安田弁護士はなぜ起訴され、なぜ保釈されないのか
海渡雄一(弁護士)
第一 事件に対する疑問
1 第1回公判から見えてきたこと
3月3日安田弁護士の第1回公判が行われた。私は、実働を伴わない応援団の弁護団の一員としてこの法廷に参加した。当日は冒頭手続で安田弁護士の意見陳述と弁護団の意見陳述、検察官の冒頭陳述、同意書証の取調、さらには一人目の証人の取調までが行われた。まず、この第1回公判に参加して感じたことから述べてみたい。
2 強制執行が行われていないのに、「強制執行妨害」とは!?
まず、なによりも驚いたことは住管機構も旧住専会社もスンズ社に対して賃料の差押も、抵当権の実行もなんら強制執行手続きをとっていないことが明らかになった。強制執行妨害罪で起訴されていると言うからには、だれしも、住専会社によって「強制執行妨害」という以上何らかの手続が取られたが、会社側の妨害行為によって成果を上げられなかったと考えたはずである。ところが、検察官の冒頭陳述からもこのような手続は何ら取られていないことが明らかとなった。強制執行すら試みていないものが、財産を隠されたとして告発を行うというのは理解できない。そして、このような怠慢の上に、スンズ社による任意の弁済交渉を住専側から拒否しているのである。本件は通常の事件では考えられないような奇怪な様相を呈している。
3 起訴状、検察官冒頭陳述による被疑事実
起訴状に戻って検討してみよう。起訴状による安田弁護士の公訴事実は次のようなものであった。
被告人は不動産販売、仲介、賃貸を目的とする有限会社「スンーズエンタープライズ」の法律・経営相談に従事していたが、平成五年二月ころから平成八年九月ころまでの間、同社所有の二つのビルについて、賃貸人の名義を実態のない二つの会社に変更し、賃料二億円余をこれらの会社に振り込ませ、強制執行を免れる目的で財産を隠匿したものであるというのだ。この二つのビルは確かに住専会社の抵当権の対象となっていたようである。この起訴状を素直に読めば、住専会社はこのビルの賃料を差し押さえようとして、賃貸人の名義が変更されていたために失敗したように読める。しかし、そんな事実はまったくないというのだ。要するに住専会社はこの債権の回収のために抵当権の実行も賃料の差押もしないで、放置していただけなのである。それで、なぜ、強制執行妨害になるのだ。
4 安田弁護士の意見
確かに、テナントに対する賃貸人が変更された事実はあるようだ。安田弁護士の説明はこうだ。顧問会社の財産、負債、不動産価格の動向などの経理状況から会社が不動産所有会社として生き残ることは難しいと判断し、不動産賃貸部門を分離独立させてその部分が生き残るという通常の会社再建策を提案したにすぎない。賃貸人の地位は真実譲渡されているのであって、仮装の譲渡の事実はない。不動産賃貸会社は結局成功しなかったが、それは結果であって、自分は真実賃貸人の地位を移転するように指示したのであって、仮装の譲渡や、強制執行妨害の指示は一切していない。
こういうことは、バブル崩壊後の不動産業界では数限りなく行われたのであり、会社再建のための通常の努力と評価できると思う。
5 住管は物上代位ができるのだから、本件は不能犯だ
弁護団は意見陳述でいくつかの重要な指摘を行なった。
賃貸人の地位を移転して、サブリース契約を締結してもスンズ社はサブリース会社に対する関係では依然賃貸人であり、いつでも賃料の差し押さえは可能である。むしろ、テナントに対する差し押さえに比べて手続きは一つですむので楽とも言える。
さらに、テナントに対しても、直接物上代位権に基づいて賃料の差し押さえをすることが可能である。「物上代位」は、抵当権者は債務者が債務を不履行した場合、不動産の競売ができるだけでなく、競売前でもその不動産の賃料の差し押さえができるという制度であり、この場合には不動産の名義人や賃貸人の名義が変えられていても抵当権の物権的効力によって賃料の差押えが可能である(民法三七二条、三〇四条)。最高裁平成元年一〇月二七日判決は賃料に対する物上代位をはじめて認めた。住宅専門金融機関としては、抵当権者として物上代位すれば、賃貸人の名義が変更された後も賃料の差押えは可能だったのである。従って、本件は妨害の可能性がないので、「不能犯」であるという主張がなされている。
6 公訴時効は三年、事件は五年前でなぜ起訴できるのか
強制執行妨害罪は法定刑は二年以下の懲役又は五〇万円以下の罰金とされている。時効は3年である。ところが、本件は1994年2月から11月に起きたとされている。これでなぜ、起訴できるのか。賃貸人の譲渡の後の賃料の振込までが強制執行妨害を構成しているので、賃料の振込が続いているうちは時効が完成しないというのである。しかし、この理屈でいくと不動産を仮装譲渡して、強制執行を妨害した場合、その不動産に賃借人がいれば時効はいつまでも完成せず、賃借人がいなければ仮装譲渡の日から時効が進行することとなる。
第2 身柄に対する疑問
1 安田さんは何故、保釈されないのか。
弁護団は第1回公判以前にも2回の保釈請求を行ったがいずれも却下されている。そして、第1回公判期日には弁護士二八〇〇名に及ぶ署名を添えて保釈請求を行ったが、やはり却下されている。
本件は弁護士の業務上の会社経営に関する助言を内容とする弁護士活動そのものを犯罪被疑事実とした異例なものである。安田弁護士は数多くの重要な事件の事件処理を行なっており、また既に三回におよぶ任意の事情聴取と捜索にも協力しており、逃亡したり、罪証を隠滅することなど全く考えられない状況である。弁護団は共犯者とされているスンズ社関係者との連絡をとらないという保釈条件を受け入れると言明している。
住管機構による弁護士の告発事件でも、身柄を拘束されず、在宅で起訴されているケースもある。本件では会社社長も既に保釈されており、共犯者とされ、起訴された者の中には起訴猶予となって釈放されているものまでいるのである。この共犯者は検察側の重要証人としてこの事件の法廷に出廷することとなっている。
なぜ、安田さんだけが保釈を認められないのか。
2 依頼者との関係について証言を拒否することは弁護士の職務上の義務
安田弁護士は当初被疑事実について黙秘していた。このことで、なにか疑わしい点があるようにマスコミなどにも書かれた。しかし、本件は弁護士とその依頼者が共犯とされた事件であるという特殊性をよく理解してほしい。弁護士には依頼事件について守秘義務がある。民事訴訟法、刑事訴訟法は弁護士に証言拒否権を認めている(民事訴訟法一九七条、刑事訴訟法一四九条)。これは権利であると同時にむしろ弁護士の職業上の義務ではないか。
自らの依頼者との打合せの内容について警察に進んで供述する弁護士が信用に値する弁護士だろうか。あえて反論を自制し、依頼者の事件の第一回刑事公判でその罪状認否が明確となるまで、黙秘を貫いた安田弁護士は立派だと思う。そのことを保釈に当たって不利益に斟酌することは許されない。
第3 被告人と弁護人を一体視することの危険性
1 忘れ去られる刑事弁護の基本原則
国家権力が刑罰権を発動するときに、被告人のとなりに被告人とともに考え、被告人のために有利な証拠を集め、検察官の集めた証拠を分析して被告人に有利な部分を引き出すことを役割とする法律家=弁護人が存在しなければならない。このことは近代的な刑事裁判の鉄則である。もう辞任してしまったが、中村前法務大臣は和歌山のカレー事件とオウム事件を引き合いに、悪人を弁護する弁護士への不信の声が上がっていると記者会見で発言した。国の法務行政の中心に近代刑事裁判の原則を全く理解していない人間が座りうる、この国の現実に戦慄せざるを得ない。
2 安田さんの弁護活動を封ずることが事件の目的となっているのではないか
本件の操作には、安田弁護士の逮捕を自己目的化しているようにうかがわれる点がある。共犯者とされる会社経営者に当初の弁護人を解任して捜査に協力的な別の弁護人を選任するよう圧力が加えられている。また、捜査に協力した共犯者の中には起訴すらされず、身柄を釈放されている者もいる。
いうまでもなく、安田弁護士は死刑事件弁護の第一人者であり、死刑廃止運動を名実共に中心で担っていた弁護士である。私は死刑廃止フォーラム90の活動の中心であった安田弁護士の活躍ぶりを間近に見てきた。極めて多数の死刑関係事件を担当し、死刑求刑のなされた事件で無期懲役の判決を得たり(丸山博文被告事件)、一審死刑事件を高裁で無期懲役に逆転したり(梶原利行被告事件)、その活躍は人権活動とりわけ、死刑廃止運動にかかわる市民の広く知るところであった。
とりわけ、麻原被告人の主任弁護人として、刑事訴訟法の原則に忠実な弁護活動を繰り広げ、緻密な反対尋問を通じて事件の真相が検察官の主張するシナリオ通りのものでないことを具体的に示してきた。また、警察の捜査が適切であれば地下鉄サリン事件は未然に防止できたのではないかという問題提起を行なおうとしていたという。
正確な事実関係を推定することは弁護人の弁護活動の出発点であり、麻原弁護団の弁護活動はこの原則に忠実であったということにつきる。しかし、検察官は安田主任弁護人を中心とするこのような麻原弁護団の弁護方針を、些末なことにこだわり、裁判に時間がかかり過ぎるなどとして強く批判し、多くのマスコミもこのような非難に同調している中で安田さんは逮捕されたのである。
また、さる10月末に行われた規約人権委員会の政府報告書の審査において、日本の死刑制度、死刑確定者の処遇の問題が国際社会の切実な関心事項となっている事が示され、死刑廃止に向けた具体的な努力と死刑確定者の処遇の改善が勧告された。ところが、そのわずか半月後に中村法務大臣は死刑を執行している。この死刑執行の抗議活動においても安田弁護士は先頭に立っていた。
そして、遂に東京地裁は三月末安田さんの麻原公判への欠席を理由として、安田さんを国選弁護人から解任するに至った。当然保釈を認められるべきケースについて、保釈を認めていないのも別の裁判官とは言え東京地裁である。それを理由に国選弁護人を解任するという今回の措置を見ていると、安田さんに対する逮捕すらが警察・検察・住管だけでなく、裁判所までが深く加担した陰謀なのではないかと憶測したくなる。
3 マネーロンダリング・犯罪収益収受罪の先取り的な逮捕
いわゆる組織犯罪対策法案は「盗聴法案」として広く知られているが、もう一つの大きな問題はいわゆるマネーロンダリング対策である。法案は犯罪収益収受の罪を麻薬・銃砲などだけでなく、広範な一般犯罪に拡大している。犯罪による収益をそれと知って受け取ったものをすべて犯罪にしていくのが犯罪収益収受の罪である。私たちは、この犯罪収益収受罪が弁護活動を著しく困難にする可能性があると警告してきた。
さる一一月一七日に星陵会館で開催された「盗聴法・組織犯罪対策法に反対する市民と国会議員の集い」で私たち弁護士ネットは劇を上演した。内容は次のようなものだった。国労の採用差別事件を念頭に労働委員会で命令を得ながら裁判所で命令が取り消され、組合の自主交渉で現職復帰と解決金を勝ち取る。弁護士も報酬をもらうのだが、団体交渉が深夜に及び、組合役員は恐喝、弁護士は犯罪収益収受の罪で逮捕されてしまう。私はこのシナリオを考え、自ら逮捕される弁護士を演じた。そのわずか二週間後に安田さんが逮捕されてしまったのだ。
今回の逮捕は強制執行妨害罪の共犯とされているが、この組織犯罪対策法が成立すれば、共犯者としてではなく、依頼者が一定の犯罪に基づいて取得した金を、違法に取得された金であるという「未必的な認識」=「やばい金かもしれないという認識」がありながら受領すると、それだけで犯罪収益収受罪になる。暴力団だけでなく、いわゆる「過激派」=新左翼党派や争議組合などから民事事件、刑事事件の弁護士費用を受け取ることも「未必的な認識」があれば犯罪とできるのだ。
アメリカでは、連邦法18編1957条の罪について麻薬密売人の刑事弁護を行なおうとする弁護士は、その報酬を受け取るときにそれが麻薬取引に由来することを知っていた場合には訴追される危険があるので、事件を受任することをためらうようになり、弁護人依頼権が侵害されるとして争われた事件がある (United States v.Monsanto 491 U.S.)。この事件について、一九八九年六月二二日付の連邦最高裁判所決定で、没収となりうる財産の判決前の凍結は憲法修正六条の弁護人依頼権の保障規定、憲法修正五条のデュー・プロセス条項に違反しないとの判決が、五対四の僅差で出されている。しかし最高裁判事のうち四人(ブラックマン、ブレナン、マーシャル、スティーブンス)は憲法違反としたことが注目される。少数意見は、国選弁護人制度において被告人と弁護人の信頼関係を形成することが困難であることを指摘し、私選弁護制度は真に効果的な弁護を行なうために必要な弁護人と依頼者の信頼を育むことに資するものであると指摘している。そして、この法律が刑事司法システムの基本的な公正性を掘り崩してしまうとしている。つまり、アメリカ連邦最高裁の裁判官九名のうち四名までが弁護人依頼権とデュー・プロセス条項に反するとした法律と同様の内容を持つ法律が日本でも制定されようとしているのだ。法務省は法案国会提出前に自民党と社民党などの間で行なわれた与党協議の場で、この判決を引用しながら現在立案中の法律のもとでも弁護人が受け取る報酬に犯罪収益収受罪の罪を適用する可能性を肯定している。
このような法律が制定されれば、反社会的とレッテルをはられた集団とその構成員の弁護は極めて困難なものとなる。弁護士自らが逮捕されることを覚悟しなければその弁護もできなくなるのである。戦前の治安維持法下では、治安維持法違反に問われた被告人の弁護活動自体が治安維持法違反に問われて、弁護士も逮捕され有罪とされた例がある。刑事事件は一般的に犯罪を犯したとされる者が依頼者となる。その依頼者から弁護士費用を受け取っているからという理由で、被告人と弁護人を同一視し、弁護士も犯罪収益収受の罪で訴追できるということになれば刑事弁護は根底から覆されてしまう。今回の安田弁護士の逮捕も、依頼者の犯罪行為とされる行為と相談に当たった弁護士の行為を同一視している点でも、この組織的犯罪対策法の考え方に通ずるものがある。
又、犯罪収益収受の罪は犯罪収益が存在するかぎりいつまでも時効とならない、いわば公訴時効のない犯罪といわれる。本件が公訴時効3年であるにもかかわらず、5年以上も前の事件を訴追してきている点も、組織的犯罪対策法の制定を待たずに、これを先取り的に実施し、法成立後に布石を打っておく意図も感じられるのである。
第4 債権回収が国家的事業となるとき
1 警察権力を利用した債権回収の危うさ
これまで、金融機関が強制執行に関連した事件で捜査を求めても警察は「詐欺」「横領」のようなはっきりとした事件は別として、このような事件の多くについて「民事不介入」として、積極的に取り上げてこなかった。国際人権自由権規約一一条は「何人も、契約上の義務を履行することができないことのみを理由として拘禁されない。」ということを定めている。民事責任と刑事責任を区別し、債務不履行自体を犯罪としてはならないという近代法の原則を確認した規定だ。
金融機関の債権回収を国家的関心事とし、強制執行の妨害を理由に、民事事件に警察が過度に介入することを許せば、このような近代法の原則を掘り崩すことにつながりかねない。住管機構は債権回収のための強制調査権限までが法律で付与され、多くの弁護士が関与する特殊な機関として設立された。社長を中坊弁護士とすることによりその権威を高めた。住管機構の常務取締役である黒田純吉弁護士は「住専処理における弁護士の活動」(「自由と正義」九八年一〇月号)において、「捜査機関との連携により、適宜検挙が行なわれ、闇の世界との絶縁を身をもって示すことができつつある。刑事事件相当案件を探し出すのも弁護士の仕事の一つである。」と述べている。黒田弁護士も死刑事件の弁護を担当してきた人権弁護士であり、私たちの仲間である。しかし、住管機構に関与する弁護士は債権回収の手段として時間のかかる民事手続きよりも手っ取り早い警察機関を利用するうちに、権力の恣意的な濫用に対する歯止めの感覚・意識を失ってしまったのではないかと考えざるを得ない。自ら抵当権の実行も賃料の差し押さえもしていない事件について強制執行妨害で告発しても、普通の金融機関なら、警察は相手にしないだろう。なぜ、そんな事件に警察が血眼になっているのか、安田さんを逮捕するためであることは明らかではないか。このような警察の恣意的な捜査権限の濫用に歯止めを掛けることこそが公的機関に身を置く弁護士に求められていた職能ではないのか。
2 裁判所が令状を発布したから告発?
弘中惇一郎弁護士らが送った住管機構への公開質問状に対する回答で、住管機構は次のように回答した。
1)捜査当局が強制捜査の準備に入ったため、実質的交渉を中断した。
2)逮捕前の段階での預金保険機構からの告発の要請は「強制捜査を促す」ので拒否した。
3)しかし裁判所の逮捕状が交付され、警察が逮捕を執行した段階では「犯罪と思料する」段階に至ったと判断し、告発を行なった。
中坊弁護士や黒田弁護士が、裁判所の逮捕令状が警察の作りあげた捜査報告書によってたやすく発布され、その却下率がわずか0・1パーセントにすぎないことを知らないはずがない。逮捕令状が出されたという理由だけで住管機構にとって新しい事実が判明したわけでもないのに告発に踏み切ったというこの回答は何を物語っているのだろう。
3 住管はオールジャパンなのか?
真偽は明らかでないが、本件の捜査の最終段階で、捜査当局から住管機構に対して、告発をしなければ今後の他事件での捜査に協力できないとの圧力が加えられたという情報もある。
宮崎学氏と住管の専務である尾崎弁護士との面談の経過が近著「地獄への道はアホな正義で埋まっとる」に掲載されている。尾崎弁護士の発言で気になったことがある。「この法律(住専法)をやっていくには、オールジャパンでやっていくのは当然の前提だし、オールジャパンの中で、いかに弁護士が地位を占めて、変な偏向や行き過ぎを正しつつも、いろんな矛盾点のところに集約されたものを解きほぐしていくためには、弁護士は力を要請されている。やらなきゃしょうがないと思う。」という発言だ。
尾崎氏は自らの会社「住管」のことを「オールジャパン」と呼んでいる。裁判所と、警察検察に弁護士も入っているからオールジャパンということなのだろう。しかし、私にいわせれば国家権力機構に、これをチェックしなければならない弁護士が取り込まれ、チェック能力が失われた暴走状態としか見えない。もう一度言おう。みずから抵当権の実行も賃料の差し押さえもしていない事件、5年以上も前の事件について強制執行妨害罪で告発することが如何に異例なことか。普通の銀行がそのようなケースで告発しても警察は告発状すら受理しないだろう。そのような事件が、担当弁護士の逮捕にまで発展し、保釈も認められないのはなぜなのか。安田弁護士の便御活動を封ずる陰謀の隠れ蓑として中坊氏、黒田氏、尾崎氏をはじめとする住管の弁護士たちは使われているのだ。そのことを早く自覚し、真に「変な偏向や行き過ぎを正」す内部的な努力をし、その結果を示してほしい。
第5 安田弁護士を取り戻すために
逮捕直後の12月16日には弁護士会館において約500名の参加者を集めて安田弁護士の不当逮捕に対する緊急抗議集会が開催された。第二東京弁護士会の有志は1月11日に会員集会をもち、この署名を全会、全国で集めることを決めた。1月23日には市民主体の集会も持たれた。安田弁護士の起訴後にはじめられたその釈放・保釈を求める弁護士署名の活動は既に3000名に達する署名を集めた。その中には日弁連の現会長なども含まれている。
繰り返し述べてきたように、本件起訴は前例のない、異常な起訴である。この事件は安田弁護士の身柄を拘束し、その弁護活動を封じることを目的としていると考えざるを得ない。まず。安田弁護士の保釈を強く求めたい。このような種類の事件で、弁護士を長期間に渡って身柄拘束する裁判所の勾留制度の運用はとうてい容認できないものだ。もっと弁護士会は積極的に動くべきだ。住管機構に弁護士会が深くコミットしていることから、困難があることは十分承知している。しかし、いま住管機構が振り回している債権回収が国家事業であり、正義であるという考えはとても底が浅いものである。私たちは安田さんの裁判に勝たなければならない。そのためには、この事件の本質を知らなければならない。私は弁護士が弁護士であろうとした原点に立ち返ってこの事件を考える必要があるように思う。そして最後に、私は近い将来に、真実が明らかとなり、無罪判決によって死刑廃止運動、人権活動の戦列に安田弁護士を取り戻すことを確信し、そのために共に闘うことを心から呼びかけたい。