黒田純吉論文「住専処理における弁護士の活動」

       自由と正義98年10月号の検討


1 住管機構の組織

 住管機構の回収部門には、「東京、大阪に各一つの特別整理部が含まれる」「特別整理部内に、刑事告発などを行う特別対策室がおかれ、検察・警察出身者が配置されている」「黒田は東京特別整理部を担当している」

←論者を含む弁護士が検察、警察とともに、刑事事件告発に直接参加していることを示す

2 預金保険機構

 「住管機構はその処理計画や業務実績を預金保険機構に報告して承認を得ることになっており、預金保険機構は住管機構に関する指導・助言機関である。」「預金保険機構には、理事長及び住専処理を担当する東京と大阪の特別業務部長にそれぞれ検察官が就任しているほか、裁判官三名、検察官六名が勤務」「裁判官・弁護士あるいは検察官・弁護士の間の職務上の相違からくる案件についての異なった視点が、訴訟提起に際して、あるいは刑事告発に際して、非常に有益な効果を発揮する

←弁護士が、裁判官、検察官の「指導・助言」を仰ぎながら、刑事告発を行っているという構造

3 捜査機関との連携

 「融資の過程に債務者の欺罔行為がある場合のほか、財産を隠匿して執行を免じる行為・・・などに対しては、住管機構は時をおかずに告発等の措置を講じてきた。捜査機関との連携により、適宜検挙が行われ、闇の世界との絶縁を身をもって示すことができつつある。刑事事件相当案件を探し出すのも弁護士の仕事の一つである。

←弁護士が捜査機関と連携して刑事事件相当事案を「探し出す」という恐ろしい構造

4 弁護士関与の意味

 「住管機構への弁護士の関与は、このように行政の一端に弁護士が関与することを意味する」「住管機構と官僚と金融機関の恣意に委ねるのではなく、弁護士が法的ルールに基づく公正・透明な手続を実践する場とすることにより、業務遂行の経過と問題点を国民の前に明らかにすることが可能になるからである。」「それは、中坊公平という類いまれな指導者の社長就任によって、よく実現されつつある。」

←「法的ルールに基づく公正・透明な手続き」の言い回しは自民党司法特別調査会と同じ。行政権力に弁護士がビルトインされていくことの危険性に無自覚な居直り。

5 債務者側代理人

 「ほとんどの弁護士は、住管機構の業務の目的を的確に理解し、債務者に対しても適切なアドバイスをしていただいている」「しかし、遺憾ながら債務者に対して財産隠しを指南し、共犯者として検挙される例がないではない。弁護士の本来の職務とは何かが問われている

←この言い方は今後債務者側弁護士をどんどん摘発していくという論者の姿勢を示すもの。また、論者が問題を「弁護士の本来の職務」と立てて挑戦してきていること。

6 弁護士関与の課題

 住管機構に関与する「これら弁護士の活動を支えているものは、多様な手法を駆使した回収業務自体の充実感、職員から受ける信頼などのほか、利害を超えたパブリックなものへ関わることへの充足感ではないだろうか。

←弁護士が、「多様な手法を駆使して」公権力の行使に当たることに「充実感」「充足感」を感じるというあきれはてた話。論者の在野精神はどこへ行ってしまったのか。

 「弁護士が扱うべき大量の法律事務がここに存在する。これを放置しておくことはもはや出来ない。そのためにこそ、こうした要請に応えるだけの質をもった多数の弁護士と弁護士の執務体制あるいは存在形態の変革が必要となるだろう

←要するに論者によれば、今後の「弁護士のあり方」は、そのいうところの「パブリックなもの」に多数の弁護士が動員されるべきものであり、しかも、その「執務体制あるいは存在形態の変革」が必要ということになる。