新解ぱくぱく辞典・イ

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イクラ/イチゴ大福/伊勢海老/田舎じるこ/イカ/イリコ/芋

【わからないことだらけ】

「あ」に較べてずいぶん項目が少ない。赤瀬川さんに、思い入れがあってたくさん書きたいことのある食べ物があったのだろう。あるいは、項目が少ないので無理矢理のばして書いたか。

 【イクラ】ということばは「イスクラ」に似ている。「イスクラ」はロシア語で、確かレーニンの発刊した地下機関紙の名前だったと思う。もとの意味は「火花」だ。どんな大きな火も最初は火花だ、というような意味合いだ。気合いが入っている。で、イクラもなんかロシア語起源だったという説を聞いたことがあるような気がする。ロシア人だったら魚の卵はキャビアもあることだし得意だろう。レーニンもイクラをつまみながら革命を構想した(のかもしれない)。そういえば赤いし。イスクラだってそこからの洒落かもしれないのである。違うだろうけど。

 ところで、私には人造イクラと天然ものの区別がつかない。それほど見た目は近いにしても、味でもわからないのだから情けない。どなたか、区別する方法を教えていただきたい。知らない方がいいのかもしれないが。もしかしたら、ホンモノのイクラを食べていないのかもしれない。

 筋子とイクラも本質的にどう違うのかわからない。筋子はつながっているが、ばらばらにしたものがイクラなのだろうか。イクラに関してはわからないことだらけだ。

 【イチゴ大福】なんて食べたことがない。別に忌避しているわけではないので、いちど機会があれば食べてみようと思う。甘いものは得意だ。イチゴのようにほんのりした味だからこそアンコにあわせられるのだろう。味は想像するしかないし、それほどその想像と実際が違うとも思えないが、たいていイチゴ大福を初めて食べた人はその感想として「想像よりずっとうまかった」と言う。わくわくする。

 【伊勢海老】。なんか食べたことがないものが続くなあ。伊勢海老ってうまそうだなと思ったのは、有吉佐和子の『わたしは忘れない』という若い頃に書いた小説に出て来た描写だ。鹿児島県の黒島という絶海の離島にふらりと訪れた主人公の傷心の女性が、島でいろいろあって、たくましくなっていく話しであった。伊勢海老をふるまわれるエピソードがあるのだが、刺身よりもボイルしたものをマヨネーズで食べるのがうまいのだという。もったいない気もするけど、意外とそういうものなのかもしれない。

 ところで伊勢海老というからには、伊勢の方にあるのだろうと思っていた。何度か伊勢を訪れる機会があったが、伊勢海老は食ったことがない。もちろん、伊勢海老じたいはあるのだけどなぜかというか、やはり高い。町中の何の変哲もない食堂で、伊勢海老定食が五千円とか六千円するのだ。もちろん、東京ではそれでも考えられないほど安い価格なのだろうけど、やはり手がでない。そのかわりに伊勢で安いものはなんといっても「伊勢うどん」である。真っ黒な汁がかかっているうどんだ。妙に立派な海老殻のはく製(?)をにらみつつ、ぞぞぞと黒い忌わしいうどんを食う。これぞ伊勢。

 【田舎じるこ】とはなんなのだろう。だいたい「田舎〜」という接頭辞がついたメニューはよくわからない。そば屋にいくとなぜか「田舎うどん」というのがあるし、メニューではないが「田舎みそ」というのもあったような気がする。(これは商標かもしれない。)田舎が何を意味しているのかわからないのであとは想像するしかないが、なんとなく田舎くさい材料が使われたしるこなのだろう、と思う。田舎くさいってどんなものだろう。その時点で思考停止状態だ。都会生まれの都会育ちゆえ、田舎をほとんど知らないからだ。たい肥の臭いを想像したが、そんな臭いがしるこからするわけがない。あとは、純朴な農家のおじいさんおばあさん。フィリピン人の嫁。減反政策。うーん、甘納豆とナタデココと「ヤミ米」が入っていたりするのだろうか。

 【イカ】はさすがに食べたことがある。といっても、半透明の鮮度の高いイカなどと難しいことをいわれるとお手上げだ。どうも、そういうイカを食べたことがないせいか、イカが好きという人の心境がよくわからない。歯ごたえがいいのだろうか。スシネタでもそれほどうれしくない。イカのくんせいは旨味があって大好きである。あとイカスミスパゲティーも好きだけど、これもサイゼリア(安いイタメシチェーンレストラン)などで食うと量ばかりでなんか脂味が強くて、どうもうまくない。

 【イリコ】、一名煮干し。最近は小さめのパック入りで、魚自体も小さめのものを売っている。あまり生臭くなく、だしをとったあとも取り出さなくてもいいのだそうだ。しばらくそういうものを使っていたが、それすら面倒になって、今ではティーバッグ式のダシを使うようになった。それでも「ほんだし」などよりはよほどホンモノに近い。イリコは確かに昔は大きいものを使っていた。ネコが喜んで食べるが、実家のイヌだって喜んで食べていた。もう25年ぐらい前の話である。日本の雑種犬は魚系が大好きなのだろう。大きなイリコを何匹だって喜んで食べる。残飯にイリコを載せて、醤油とお湯と味の素をかけたものが家で飼っていた雑種犬の餌だった。するとイリコだけ食べていたりした。ちょっと今から思うといくらイヌの餌でもかわいそうだったと思う。

 【芋】は私が扱うことができる数少ない「天然素材」だ。といってもジャガイモだけだけど。私の作る味噌汁はほとんどの場合、タマネギとジャガイモの味噌汁だ。これは必ずうまいものができて満足する。芋を煮る時間だけが問題で、短くて芯が残っても、逆に長過ぎて崩れてしまってもよくない。まあ、ときどき様子を見ていれば間違えない。

 サトイモは剥いて冷凍にしたものを売っている。これは便利だと思う。トロロはコンビニで売っているソバについていたりするが、これはなんか化学の味がきついような気がして、さすがにいただけない。

 芋といえば、お正月だけ食べるヤツガシラというものがある。こういう芋がいろいろな芋の原種に近いのだろうと思う。沖縄やフィリピンで着色料にする赤い芋や、南の島で食べるヤムイモとかタロイモとかいうものもこのようなものだろうと想像している。でも、これもわからない世界だ。行って食べてみないとわからない。

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