新解ぱくぱく辞典・ア

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鮑/赤貝/青柳/アサリ/鰺/アンキモ/アンコウ/鮎/泡盛/熱燗/甘食/アンパン/甘納豆/アンミツ

【ホンモノとニセモノ】

 お寿司は好きだが、彼等との出会いはたいていうねうねと動くコンベアの上だ。寿司を載せたプラスティックの皿がひょこひょこ動いたりして、間抜けだ。もちろんみなさん先刻御存じの「回転寿司」のことだが、これはいわば「ニセモノの寿司屋」である。回転寿司の人には怒られるかも知れないが。価格の違いには品質差だけではなく流通や人件費、地代なども絡むだろうから、一概に回転イコール、ニセモノとは言いがたい。でも、実際のところ、寿司の味、鮮度、店の雰囲気、あらゆる点で格差がありすぎる。寿司という食事に「ハレ」を求めるならば、回転しているのは不適格だ。で私も、世間の大勢同様、回転しない方が好きなのだが、いかんせん価格の違いは決定的な要素だ。この価格差では回転するぐらいは目をつぶらなければならない、と自分に言い聞かせている。とにかく寿司は回転したことによって「ケ」の食事になった。それはそれで良いことだと思う。

 回転寿司に詳しい人なら、大きくわけて2種類の店があることを先刻承知のことであろう。主流派は、流れる皿を模様や色で区別し、それぞれ1皿当たりの価格を変化させている。安い皿は大抵無地で、120円ぐらい。これには、普通の巻き物、名もないイカやタコ、普通のマグロなどのネタが2かんずつ載っている。絵皿や編み目皿になると240円とか360円という価格になる。これにはいわゆる高級なネタ、つまりイクラやウニ、中とろ、大海老なんていう素敵なものが載っている。高いといったって、これでも回転しない寿司の最低価格には達しないだろう。ただ、やはりこういう皿をとってばかりいると、「ケ」のはずの回転寿司でも2000円ぐらいの支払いになってしまい、意外と高いものだなと思ったりする。

 これに対して反主流は、すべての皿が同じ値段だという店。だいたい120円とか130円という設定である。こういう店にいわゆる高級ネタがないかというと、そんなことはない。でも、露骨にネタが小さくなったりする。個人的には、それでもこの反主流型の店の方がネタが良いことが多いと思う。全体的に工夫が感じられるし、種類は少なくとも人気のあるネタは意外と新鮮さがあったりする。

 さて【鮑】なんてネタはこの後者タイプの店ではお目にかかれないものである。鮑を小さく薄く切っても有り難みが薄いのであろう。前者の店ではちゃんと流れている。ただ、ちょっと苦い気がしてその割には味がなく、あまりうまいとは思えない。しかし、ホンモノの鮑はきっとこんなものではないのだろう。

 【赤貝】も高級な貝だ。これはホンモノを食べたこともあるが、柔らかくって歯ごたえもあって、ぺろりとして甘くて、やはりうまい。軍艦でなく御飯の上に一面に並べて食べたらさらにうまいだろうと思う。

 【青柳】はちょっと高級味が薄い。たしか一名をバカガイといったと思う。いかにもニセモノっぽい命名である。東京湾の一角でやたらにたくさんとれたからだとも聞いた。あまり印象がない。

 貝でも【アサリ】になると、寿司ネタではない。お吸い物か味噌汁のタネだ。私はなんとなく生臭い印象があって、積極的に食べたいとは思わない。これもホンモノはうまいのだろうか。最近は、一番安いインスタント味噌汁でお世話になっている。インスタント味噌汁はニセモノの極みとも言えるが、意外といいものだ。ナガネギと厚揚げを一緒に煮て御飯にかけた深川丼というものもあるそうで、一度ぐらいは食べてみてもいいと思う。

 【鰺】は、局所的に「一番好きな食べ物」になったりする。西伊豆の旅館で食べた朝食の鰺の干物ほどうまかったものはない。十分に熟成された天然のアミノ酸たっぷりの身。骨のまわりをこそいで食べる幸せ。これはこの項で数少ない「ホンモノ」体験である。御飯が進む。食後の番茶がうまい。

 【アンキモ】は、もしメニューにあればの話だが、酒の席でたまに頼む。濃厚な味で嫌いではない。が、あまりたくさん食いたいとも思わない。どうもニセモノくさい。これもホンモノはずっとうまいのかも。

 キモでない部分の【アンコウ】に至っては未食である。なかなかこういうものを食う機会には恵まれない。坂口安吾が好んだという、どぶ鍋というなかなかワイルドな食い方があるようで、一度は試してみたい。

 【鮎】は、2、3回は食ったことがあるかという程度。養殖物だろうと思う。やっぱりニセモノである。あまり印象に残っているものではない。

 【泡盛】は大好きだ。というより沖縄が大好きだからだ。お茶の水にとてもうまくて洗練された沖縄料理屋がある。ここでわしわしと料理を食いながらグビグビやる泡盛のうまさ。ところで最高の泡盛は与那国島の花酒だという。60度を超える日本で唯一の酒。あこがれである。本土でも買えるようだけれど、地元で飲んでみたい。

 日本酒の飲み方で【熱燗】というのはどうも最近分が悪いようだ。でも、私はわりと好きだ。これだと、むしろあまり良くない酒の方がそれらしい。ニセモノにもそれなりの味わい方のコツがあるとすれば、熱燗はそういった知恵だ。熱燗よりぬる燗という人もいるし、実際うまいのだと思うが、熱燗の方が雰囲気が好きなのである。ただ店の雰囲気も重要で、熱燗を飲むのはちょっと郊外の駅前、安めの居酒屋が良い。こういう場合、安上がりであっても飲み方としては一種の「ホンモノ」を追求可能である。あとは、自棄酒のネタでもあれば最高。翌日にかけての二日酔いもホンモノ。

 【甘食】というのは幼いころには良く食べたものだと思うが、いったいあれはどこで売っているのだろうか。コンビニでは見かけないように思う。ああいうのは、軽い昼飯にはいいかもしれない。実家の近くにフナショクというメーカーがあったがそこが本場なのだろうか。意外なところにホンモノがあったりする。

 【アンパン】も、牛乳とあわせれば理想食なのだという。確かに、おやつにアンパンというけれども、アンパンは食事だなあと思う。ちょっとひしゃげたようなやつが風情があっていいと思う。アンパンのアンコはちょっと酸っぱい気がするのはなぜだろう。アンパンは必ずコンビニにはある。高級なホンモノもたまにあるが、これは安い方が味わいがあってよい。食べ物の味は食味だけではない。

 【甘納豆】というのは数えるほどしか食べたことがない。年寄りのおやつという感じだ。そうすると私も歳をとると春日井の甘納豆のお世話になるのだろうか。ぼそぼそと。

 【アンミツ】はこの間おいしい店を知った。秋葉原にある店だ。ホンモノかどうか知らないけど古伊万里や掛け軸がいっぱい並んでいて古臭い内装の、実際古そうな喫茶店だ。ここの名物がこういった和風の甘味。この店はトイレが一見に値する。なんというか、つげ義春のマンガをそのまま実体化したような空間だ。

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