平成一〇年検第三一三二一号               

検察官  宇 川 春 彦

平成一一年(む)B第三〇七号(平成一〇年刑(わ)第三四六四号)
平成一〇年一二月二五日公訴提起                

同年一二月八日勾留

保 釈 許 可 決 定

被 告 人  安   田   好   弘

昭和○○年○○月○日生         

 右の者に対する強制執行妨害被告事件について、平成一一年六月九日主任弁護人石田省三郎、弁護人土屋公献、同尾嵜裕、同喜田村洋一、同込山和人、同田鎖麻衣子、同成田茂、同長谷川純、同藤沢抱一、同前田裕司、同村岡啓一、同芳永克彦、同渡辺脩から保釈の請求があったので、検察官の意見を聴いて、これを許可する。
 保証金額は金五〇〇〇万円とする。
 出監の上は、別紙の指定条件を、誠実に守らなければならない。
もし、これに違反するときは、保釈を取り消され、保証金も没取されることがある。


  平成一一年六月一一日
    東京地方裁判所刑事第一六部

裁判長裁判官   木   村       烈

   裁判官   久   保       豊

   裁判官   柴   田   雅   司


右は謄本である
 同日同庁
  裁判所書記官 上田昭夫


         指 定 条 件

一 被告人は、【住 所 省 略 】に居住しなければならない。
  右住居を変更する必要が生じたときは、書面で裁判所に申し出て許可を受けなければならない。
二 召喚を受けたときは、必ず定められた日時に出頭しなければならない。
  出頭できない正当な理由があるときは、前もって、その理由を明らかにして、届け出なければならない。
三 逃げ隠れしたり、証拠の隠滅と思われる行為をしてはならない。
四 三日以上の旅行をする場合には、前もって裁判所に申し出て許可を受けなければならない。
五 被告人は、○○○こと○○・○○○○、○○○、○○○○、○○○ら共犯者、○○○○ら証人及び証人予定者、有限会社スンーズエンタープライズ(現商号有限会社スンーズコーポレーション東京リミテッド)の社員、元社員、その家族、同社に債権を有する法人の担当者、その他事件関係者と、直接又は弁護人を除く他の者を介して、面談したり、信書を発受したり、架電したり、インターネットを利用して通信を発受するなど、一切の接触を行ってはならない。



平成一一年(く)第一八八号
決        定

被 告 人  安  田  好  弘  

 右の者に対する強制執行妨害被告事件について、平成一一年六月一一日東京地方裁判所がした保釈許可決定に対し、検察官から抗告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主        文

      原決定を取り消す。
      本件保釈請求を却下する。
理        由

 本件抗告の趣旨は、検察官宇川春彦作成の「抗告及び裁判の執行停止申立書」に記載されているとおりであるから、これを引用する。
 論旨は、要するに、被告人には罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり、また裁量保釈を相当とする事情もないのに、被告人に対して保釈を許可した原決定はその判断を誤ったものであり、原決定を取り消して本件保釈請求を却下することを求める、というのである。
 そこで、検討すると、本件勾留の基礎となっている公訴事実は、弁護士である被告人が、有限会社スンーズエンタープライズの取締役らと共謀の上、同会杜が所有する建物の賃借人らに対して有している賃料債権等に対する強制執行を免れる目的で、実体のない会社二社の銀行預金口座を開設した上、右二社が賃貸人の地位を取得したかのように装って、以後賃料等を右預金口座に振り込むよう賃借人らに指示し、よって、賃借人らをして二四九回にわたり、合計二億円余の賃料等を右預金口座に振込入金させ、強制執行を免れる目的で財産を隠匿したというものである。このような本件事案の性質に加え、本件においては、その経緯や特に被告人と関係者との連絡、指示の状況等に関する諸事情が犯罪の成否の判断に重要な位置を占めるとうかがわれるところ、これらの事情に関し被告人と関係者らとの間にはその供述内容に相当の食い違いがあるとみられること、既に原審で七回の公判審理を経て、検察官申請証人三名(いずれもスンーズエンタープライズの債権者の関係者)の取調べを終え、現在は、スンーズエンタープライズの経理担当者であった者の証人尋問を続行中であるが、右諸事情の認定に当たりとりわけ重要な位置を占めるとうかがわれる本件の共犯者らの証人尋問をなお今後に予定している審理状況にあること等にも照らすと、原決定が「指定条件」として課している条件を付した上であっても、現段階で被告人を釈放すると、関係者に働きかけるなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由は依然存在するというべきである。なお、弁護人らが前記経理担当者に対する証人尋問の内容等に関連してるる主張する諸点にかんがみ検討しても、この判断は左右されない。したがって、本件については被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるといわざるを得ない。
 また、本件罪の法定刑、これまでの勾留の期間や、勾留の継続が被告人に対して種々の不利益をもたらしているとうかがわれること等の諸事情を考慮しても、裁量による保釈を相当とする事情があるとは認めることができない。論旨は理由がある。
 以上の次第なので、被告人に対して保釈を許可した原決定は失当であり、本件抗告は理由があるから、刑訴法四二六条二項により、原決定を取り消して、本件保釈請求を却下することとし、主文のとおり決定する。
    平成一一年六月一一日

      東京高等裁判所第一刑事部

裁判長裁判官   村   上   光   鵄



   裁判官   木   口   信   之



   裁判官   杉   山   愼   治



右は謄本である
 平成一一年六月一一日
  東京高等裁判所第一刑事部
   裁判所書記官中里功治