1999年3月19日

安田弁護団ニュース(第2回)

弁護団長 弁護士 土 屋  公 献  

事 務 局 弁護士 長 谷 川  純  

(TEL 03-3597-3377 FAX 03-3597-8777)  

  1. はじめに
     安田弁護士の強制執行妨害事件の第1回公判が、3月3日に東京地方裁判所104号法廷で開かれました。当日は弁護団席が合計で39席用意され、弁護団席が満員になると共に傍聴席も満席となり、今回の事件に対する関心の強さと、安田弁護士に対する支援の強さがうかがわれました。

  2. 本件起訴の内容
     起訴状の写しをお送りしていませんでしたので、公訴事実の全文をお送りします。但し、別表は省略します。必要な方は言って頂ければFAX致します。

    (起訴状はここをクリックして下さい。小柳)

  3. 本件起訴事実の問題点
    (1) 公訴を提起された「麻布ガーデンハイツ」の抵当権者は一番抵当権者が住商リース、二番抵当権者が住総であり、「白金台サンプラザ」の抵当権者は日住金でした。
    (2) 最高裁は、既に抵当権の目的不動産が賃貸された場合において、抵当権者は物上代位により、賃料(賃借人が供託した賃料は還付請求権を含む)について抵当権を行使することができると判示し(最判平成1年10月27日)、抵当権の物上代位につき無条件肯定説をとっていました。また、抵当権者による物上代位と、一般債権者による賃料の差押が競合した場合、一般債権者は抵当権者に劣後する為、一般債権者は抵当権者に支払を怠っている債務者に対して、その賃料債権を差し押さえても無駄となることが判明してきました。
    (3) 更に東京地裁執行部は、少なくとも平成5年の段階では抵当権の目的不動産が賃貸され、更に転賃されている場合、その転賃料債権についても、原賃貸借が抵当権設定後に行なわれた場合は物上代位を認め、債権差押命令を出していました。更には、最高裁は抵当権の物上代位の目的となる債権が譲渡され、対抗要件が具備された後においても抵当権者は物上代位権を行使することができると判示しました(最判平成10年1月30日、同平成10年2月10日)。
    (4) 賃貸人の名義を変更したとされている平成5年2月または平成5年11月には、スンーズ社は確かに住商リース、住総、日住金に対して支払が滞っていましたが、この頃これらの会社から債権支払の内容証明すら通知されておらず、これらの会社から強制執行される可能性はありませんでした。
    (5) 公訴事実中、賃貸人の名義の変更とされている行為は、安田弁護士が起訴された平成10年12月の5年10ヶ月前又は5年1ヶ月前の出来事であり、公訴時効(3年)をはるかに経過しています。
    (6) 以上のことを前提とすると、
    1. 一般債権者が賃料債権を差し押さえる可能性はなかったのではないか。
    2. 住総、日住金は賃貸人の名義が変更されても賃料の差押は十分可能だったのではないか。
    3. 本件の公訴事実の対象となっている隠匿行為は何を指すのか。賃貸人名義の変更行為を指すとすると、すでに時効が完成しているのではないか。
    4. 隠匿されたという財産は一体何なのか。賃料債権なのか、賃料自体なのか。
     等、本件の起訴状はいかにあいまいなものかが判明すると思います。

  4. 起訴状に対する求釈明
     弁護人は、まず7項目について、起訴状に対する求釈明を行いました。このうちの主なものは以下のとおりです。
    (1) 共犯者の特定、共謀の日時場所について特定されたい。
    (2) 「強制執行を免れる目的」があったという為には、現実に強制執行を受ける恐れのある客観的状況を要するが、本件各賃料について、現実に強制執行を行う客観的事情があった債権者及び執行債権の内容は何か。
    (3) 「賃貸人の地位を取得したかのように装い」とは、犯罪成立要件なのか。
    (4) 「賃料債権等を同会社名義の普通預金口座に振込入金することを指示し」たとするのは、前記の装ったことと別な行為なのか、また、独自に犯罪を成立させるのか。
    (5) 本件における隠匿とは、どの行為もしくは事実を指すのか。
    (6) 隠匿された財産は賃料なのか、賃料債権なのか。


  5. 検察官の釈明
     検察官は上記釈明要求に対し、以下のとおり釈明しました。
    (1) 共犯者は、SC、SN、IK、SIの4名であり、共謀を行ったのは平成5年2月19日、安田事務所内である。
    (2) 冒頭陳述及び立証段階で明らかにする。冒頭陳述では、別な不動産の担保債権者である三和ビジネスクレジット、住商リース、住総、日住金の債権者が指摘されている。
    (3) 財産を隠匿する為の手段である。
    (4) 別な行為である。
    (5) ダミー会社の口座に振込先を変更させることにより、発見を困難にすることである。
    (6) 隠匿されたのは、賃料債権である。
     弁護人は更に口頭で求釈明を行おうとしたが、裁判所から、現時点で起訴状の特定としては十分であると考えるという訴訟指揮があり、これ以上の求釈明はしませんでした。

  6. 被告人の意見
     安田弁護士は、その後用意した書面によって意見を述べました。
     意見の骨子は以下のとおりです。
    (1) 私は無実である。私だけでなく、スンーズ社の4人も無実である。
    (2) 私はスンーズ社からスンーズの生き残りの方法について相談を受け、スンーズ社の賃貸部分のみを分離独立させて分社化し、スンーズ社自体は資産売却して消滅させることを提言した。
    (3) 私は、スンーズ社が所有する不動産を一括して新会社に賃貸(サブリース)して、新会社はスンーズ社に賃料として6割を支払い、物件の管理等の費用に4割を得て物件管理会社として生き残ることを提言した。
    (4) 警察・検察は、新会社を実体のない賃料隠匿の為の会社であると主張するが、まったくの虚偽である。

  7. 弁護人の意見
     まず、土屋弁護人が、安田弁護士の人柄は個人的によく知っており、清廉潔白で私の知る弁護士の中で最も尊敬する人物の一人であると述べました。石田弁護士は、事実関係について、安田弁護士の主張と同様の主張を述べ、法律的主張として、以下のとおり述べました。
    (1) スンーズ社が、エービーシー社もしくはワイドトレジャー社に対して賃貸人の地位を移転したことが、真実であろうと仮装のものであろうと、抵当権者の物上代位に基づく差押には何ら影響なく、強制執行は可能である。従って、妨害の結果は発生しない。
    (2) 本件の事件の社会常識的な行為は、平成5年当時、賃借人に対して行った指示だけであり、賃料の振り込みはその結果に過ぎない。従って、犯罪行為はまさにこの点に存するのであり、そうであるとすると本件事件は公訴時効にかかり免訴される。
    (3) 物上代位の場合は、強制執行の個別性があり、強制執行妨害罪における「現実に強制執行を受けるおそれ」(最判昭和35年6月24日)とは、そうした状況、その目的、行為について関連性がなければならないと述べ、本件の場合、「麻布ガーデンハイツ」の賃料や「白金台サンプラザ」の賃料については、平成5年当時このような客観的なおそれはなかった。
    (4) 本件の勾留は不当である。


  8. 冒頭陳述
     検察官は冒頭陳述を述べました。

  9. 証拠申請
     検察官は、103点の書類及び証拠物を申請しました。弁護人は右のうち53点について同意又は取調に異議を述べず、8点について一部不同意にし、9点について意見を留保し、33点について不同意にしました。同意書面及び一部不同意の同意部分は、直ちに取り調べられました。

  10. 証人調べ
     午後からは、三和ビジネスクレジットのST証人が証言しました。三和ビジネスクレジットはスンーズ社に対して最も早く債権の回収を急いだ会社であり、債権の回収の経緯について証言がなされました。

  11. 公判日程
     公判日程の予定は以下のとおりです。
    1.  3月29日   全日
    2.  3月30日   全日
    3.  4月21日   全日(指定予定)
    4.  5月24日   全日(指定予定)
    5.  5月25日   全日(指定予定)
    6.  6月 9日   全日(指定予定)
    7.  7月 1日   全日(指定予定)
    8.  7月 2日   全日(指定予定)
    9.  7月27日   全日(指定予定)
    10.  7月28日   全日(指定予定)
    11.  8月25日   全日(指定予定)
    12.  8月26日   全日(指定予定)
    13.  9月20日   全日(指定予定)
    14.  9月21日   全日(指定予定)


  12. 次回(注:3月公判)の予定
     次回は、3月29日、3月30日の連日法廷で、まずST証人の反対尋問が行われます。この後スンーズ社の債権者関係の証人が続きます。NH(日興キャピタル)(注:撤回された)、ST(住商リース)、YE(住友銀行)の各証人の証拠調べが予定されています。


  13. 保釈申請
     第一回公判の書類手続終了後、直ちに刑事16部に対し、第三回の保釈申請を行いましたが、3月5日却下の連絡があり、弁護人は直ちに東京高裁への抗告の申立をしました。この際2863名の弁護士の保釈要求署名を提出しました。抗告は、東京高裁第11刑事部に継続されましたが、3月8日却下されました。
     腹立たしい限りです。


  14. 弁護人数
     弁護人は現在903名です。
     ところで、本件事件は、弁護士が通常の業務の中で一般的に相談される事項についての事件であり、弁護士自身の事件への関与の程度、依頼者との関係のとり方、依頼者に虚偽の事実を供述されたときの弁護士の対応等、弁護士にとっては重大な問題を数多く含んでいます。また、安田弁護士は各弁護士会に多くの友人を持ち、多くの方から励ましを受けております。
     そこで、実務活動は我々13人の弁護団が行いますが、多くの弁護士が安田弁護士を支援する立場に立っていることを裁判所に示す為、是非数多くの弁護士に弁護人になっていただくようお願い致します。別紙のとおり、弁護人選任届、回答書を同封しますので、ご友人の方々に弁護人となるよう勧めて下さるようお願い致します。


  15. 公判出席へのお願い
     第1回公判は、実務弁護団13人の他、31名の弁護人が出席し、午前中は弁護人席は満席となりました。しかしながら、午後は空席も目立つようになり、残念な状態になりました。そこで、是非第2回目以降も公判については、出席できる弁護人は出席していただくようお願い致します。なお、出席できる方については、弁護人席の用意の都合がありますので、下記の出席通知によって弁護団事務局まで知らせていただくようお願い致します。(注:出席通知書は省略)

以上

(注:上記において証人等の個人名はイニシアルに変更しました。)

弁護人選任届提出数一覧表(弁護士会別)

99.3.19現在

弁護士会提出数
北海道28
青森5
秋田3
岩手2
山形2
福島7
仙台22
茨城3
栃木2
群馬11
千葉27
埼玉46
横浜22
東京165
第1東京20
第2東京112
山梨2
静岡25
長野7
新潟8
名古屋52
三重3
岐阜5
福井2
金沢8
富山0
大阪99
京都25
神戸27
奈良9
滋賀1
和歌山3
広島21
岡山16
鳥取3
島根4
山口2
香川3
徳島3
高知2
愛媛4
福岡39
佐賀2
長崎4
大分2
熊本7
宮崎6
鹿児島4
沖縄18
合計903